漢方と聞くと、難しい、とっつきにくいなどのイメージがつきものではないでしょうか。そんな漢方の世界ですが、自分の体質をパーソナルに導き出してくれる「証」と、体質を見極めるための体の状態を見る「気・血・水」、その組み合わせでできているといえば、少しはわかりやすいかもしれません。
今回は、これらの基本的な漢方用語を漢方薬剤師の西崎れいな先生に分かりやすく解説してもらいます。
漢方医学の要 ―「証」って何?
漢方治療において重要なのが「証(しょう)」という考え方です。証とは、その人の体質、体力、抵抗力など、心身の状態全体を表すもの 。西洋医学のように病名で診断するのではなく、一人ひとりの証を丁寧に診て、その人に最適な治療法を選びます。
西洋医学では病名に基づいて薬が処方されますが、漢方医学では、その人の証に合わせて複数の生薬を組み合わせた漢方薬が選ばれます。そのため、証を見極めることは非常に重要であり、漢方治療の第一歩と言えるでしょう。
エネルギーのバランスを診断 ―「 気・血・水」
漢方医学では、人間の体は「気・血・水(き・けつ・すい)」の3つの要素で構成され、これらがバランスよく体内を巡ることで健康が保たれると考えられています。証を特定するには、この気・血・水の状態を細かく観察します。

気 : 体を動かすエネルギー、活力。気の乱れは、疲労感、倦怠感、食欲不振、冷え、イライラ、のぼせなどに繋がります。
血 : 血液。全身に栄養を運ぶ役割。血の不足や滞りは、月経不順、月経痛、貧血、めまい、立ちくらみ、皮膚の乾燥などを引き起こします。
水 : 血液以外の体液(リンパ液、唾液など)。水分バランスの乱れは、むくみ、めまい、ほてり、下痢、頻尿などに繋がります。
これら3つの要素は相互に影響し合い、バランスを保つことで健康を維持しています。
6つの証 ― 不調のパターン
気・血・水のバランスの乱れによって生じる不調には、いくつかのパターンがあります。それぞれの状態を「証」として分類することで、適切な漢方薬を選びます。
【 主な6つの証 】

気虚 : 気の不足 症状:倦怠感、息切れ、食欲不振など
気逆 : 気が上半身に逆流した状態 症状:動悸、イライラ、めまい、咳、のぼせなどを起こす
気滞 : 気の流れが滞った状態 症状:気分の落ち込み、抑うつ、胸や脇の張り、腹部の張り、便秘などを起こす

血虚 : 血の不足した状態 症状:めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、不眠、肌の乾燥、爪の変形など
瘀血 : 血の巡りが悪い状態 症状:生理痛、月経不順、頭痛、肩こり、冷え性、肌のくすみなど

水滞 : 水分が多かったり、少なかったり偏っている状態 症状:むくみ、尿量減少、下痢、めまい、耳鳴り、水っぽい痰、関節の腫れなど
「未病」は漢方の得意分野
病気というほどではないけど、疲れやすい、だるいといった自覚症状を持つ人は多いのではないでしょうか。このような状態を西洋医学で診断することはが難しいといわれ、「不定愁訴」と呼ばれています。
漢方医学では、健康な状態から病気になるまでには、連続的な変化があると捉えます。病気の手前の段階、つまり「病気ではないけれど、健康でもない状態 」を「未病(みびょう) 」と言います。
未病の状態は、まさに漢方医学が得意とする領域です。西洋医学では診断がつかないような不調でも、漢方薬を用いて体質改善することで、健康な状態を取り戻せる可能性があります。
私たちの体は、ストレス、睡眠不足、運動不足、栄養の偏りなど、様々な要因でバランスを崩しがちです。特に女性は、月経、妊娠、出産、更年期など、ホルモンバランスの変化による影響を受けやすいと言えるでしょう。
未病の段階で漢方を取り入れることで、体のバランスを整え、病気の発生を予防することに繋がります。
自分らしい健康維持に、漢方医への相談も
漢方医学は、一人ひとりの証に基づいて体質改善を目指す、オーダーメイド医療とも言えます。現代社会のさまざまなストレスや生活習慣の乱れによって、私たちの体は常にバランスを崩すリスクにさらされています。
ご自身の体質や状態に合った漢方薬を選ぶためには、漢方クリニック、漢方専門医に相談することをお勧めします。漢方の知識を深め、健やかで美しい毎日を送りましょう。
イラスト/Loulaki